Essay

第10回 「ギミックを隠せ!」

◆ギミック、それは手品のタネ

手品師が使う道具には、それはもうクリビツ仰天な仕掛けが施されているのである。
そうしたタネ部分のことを「ギミック」と言うのだが(注)、手品のタネはメシのタネ、残念ながらここでそれをつまびらかにするわけにはいかない。

が、そんな秘中の秘を、特別に少しだけ公開しようではないか。ただし、核心に係わる部分は伏字にさせていただきたい。
僕だって、全日本手品師組合から刺客を送り込まれることだけは避けたいのだ。

たとえば、「サム○ップ」という小さな道具がある。マジック業界では「20世紀最大の発明」とまで言われるシロモノだ。この「サ○チップ」、驚くべきことに人間の○○○○そっくりに作られている。
使い方はこうだ。まず○○にはめたサムチッ○を握りこんだ左手コブシに△△して、たとえばシルクのハンカチをそこへギュギュッと押し込む。その過程で右××をひそかに○○○して、○ムチップを○○してしまい、ゆっくりと左手を開くとなんと! ××××が△△△に□□したかのように、忽然と××××してしまうのだ!!! 言ってしまった。おーコワッ!

くれぐれも絶対に誰にも話さないでくださいね。僕とあなただけの秘密ですから。

注)すべてのタネ・仕掛けをギミックと称するわけではありません。

暮らしに溶け込んだギミックとは

ところで、我々の日常にも「まるでギミック」と言えそうなものが浸透している。たとえば入れ歯や付け爪、付けマツゲなどがそうだ。人体の一部を本物そっくりに再現した"暮らしのギミック"とでも呼ぶべきだろう。 ただし、これらは偽物ではあるが、おおっぴらに見せても問題のない物なので、厳密にはギミックとは言えない。

その点、「本物そっくりに模してある」「絶対にバレてはならない」「でも実はバレている」といった驚愕のギミックもある。これだ。

朝、電車に乗ったら車内をよく観察してみてほしい。必ずと言っていいほど「頭髪ギミック」装着者を見つけることができるだろう。頭髪ギミックはこの手の中でも極めて精巧な部類に入る。ちょっと見ただけでは判別するのは難しい。うっかり「カツラですか?」などと単刀直入に訊こうものなら、「いや、まだ長岡天神ですよ」などと阪急京都線の利用者にしか分からないアジなかわし方をされるのがオチである。

また、ギミックは常にむき出しに晒されているとは限らない。
もしも車内で隣に立った女性の豊かすぎる胸元がどうも気になるなと思ったら、遠慮なくこう訊くのだ。「ギミック使ってますか?」
相手の女性はにっこり笑って答えるに違いない。「ええ、シェルなんです」
なんのことか分からない人は気にしなくて結構だ。(「シカゴの四つ玉」を買うと理解できるでしょう)

つまりギミックとは、あからさまに真実を露わにできない状況で、なんとか体裁を取り繕おうとする健気でいじましい、人間の知恵の産物なのである。
5cmアップの上げ底靴だって、寄せて上げる下着だって、すぐ二重まぶたになるスティック糊だって、見合い写真の修整だって、「急に仕事が入った」という彼氏のメールだって、ぜ~んぶギミックだ。でも、なんとも微笑ましいギミックではないか。それをムリに暴こうというのは無粋な話である。

嘘は嘘のままが美しい。そんな真実もあるのではないだろうか。

フッ、またつまらぬ物を書いてしまった・・・。

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