Essay

第6回 「プロの方ですか?」

「プロの方ですか?」と聞かれることがある。裏を返せば「こんなこと、職業として成り立つの?」という疑問でもある。まさか「いや、ただの趣味です」とは答えられまい。たとえそれが一ヶ月ぶりの仕事であっても、胸を張って「そうです」と言うしかない。だがそもそも、どこからがプロでどこからがアマチュアなのか。今回は、この一年を総括してちょっとマジメにそのあたりを考えてみたい。

◆必要とされてこそプロ

ある人に言われた。「人に認められれば、プロだよ」。僕はこの言葉がもっとも本質をついていると思う。“自分で名乗れば明日からプロ”そんなのは嘘っぱちである。誰かに認められる、すなわち必要とされてはじめてプロは成り立つのだ。

僕はマジックを始めた当初から常々、「マジシャンなんて、別に無くても構わない職業だ」と考えている。マジックなんか見たって空腹が満たされるわけでもないし、暮らしが便利になるわけでもない。
でもだからこそ、どうすれば社会の一員として認められ、必要とされるかを考え続けてきたつもりだ。ただ自分が好きなことをひけらかして、それでお金をもらおうなどとは虫が良すぎる。そんなに甘くない。自分のすることが世の中で小さな歯車として機能し、他の歯車とかみ合っていかなければ存在理由はない。

手品師だって普通の社会人にすぎない。勤労と引き換えに報酬を得て、社会になんらかの貢献をすることが求められる。単にマジックを見せてさえいればいいのではない。それを通して何かしらの役割を果たすこと、たとえば見ている人を楽しまるのはもちろん、イベントを盛り上げることで誰かの仕事を成功させたり、人が集まることでお金が動いたり、あるいは単なるにぎやかしであっても、世の中に対してささやかながらもプラスの作用を生むこと、それが仕事なのだ。

◆誰が為に

ある現場で、「でも所詮、マジックって趣味の世界でしょ」と言われたことがある。彼の無理解と無礼に僕は内心、「それを仕事のレベルにまで昇華させてるからここにおるんちゃうんかい!」と憤慨したものだ。
またある時、酔ったお客さんにおしぼりを顔に投げつけられ、それでも笑ってやり切ったことがあった。悔しかったが、プロってこういうことなんだな、と自覚した最初の瞬間でもあった。

プロとアマチュア、最大の違いは「誰のためにやっているか」ということに尽きると思う。自分が好きとか嫌いとかを超越して、世の必要のために働く。それを忘れ、自分のためだけにマジックをやるようになったらもはやプロではない。
これはマジックに限らずどんな職業にも言えることではないだろうか。

マーフィー岡田さんをご存知だろうか。デパートなどで見かける、調理器具とか包丁とかを面白く説明しながら売る実演販売の第一人者だ。その方がテレビでこんなことを言っていた。

「好きなことを、好きなだけやるのがアマチュア。好きなことを、嫌いになるまでとことんやって、それでもなおやり続けるのがプロ」

実に重みのある言葉だと思う。

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