Essay
第5回 「マジシャンお財布事情」
3ヶ月の沈黙を破って再始動する今回は、業界の秘密に迫る特別企画である。
お財布事情と言っても、持ち歩く現金は年齢×1000円とか、ヨドバシのポイントカードだけは絶対入れてる、とかそんな話ではない。実際問題、マジシャンっていったいどれくらい稼いでいるのか? いや、そもそも食っていけるのか。多くの方が抱くであろうこの素朴かつ禁断とも言える疑問にお答えしようというのだ。これがテレビなら間違いなくモザイク入れて声を変えてもらうところだ。
◆日々崖っぷちの実態
さっそくだがマジシャンの収入源はだいたいこんな感じ。
- いわゆる営業。パーティや結婚披露宴、イベント等に出演してギャラをもらう。
- マジックバーやレストランなどでレギュラー出演の契約をし、出演料をもらう。
- 手品教室の講師や愛好家向けレクチャー
- マジック道具の販売員(社員である場合が多い→給料制?)
- このエッセイを見てくれている人が、こっそり現金入り封筒を郵送してくれる。
メインになるのは当然、営業だ。しかし、人によって収入差はピンキリで、年収1000万円を越える売れっ子もいる反面、アルバイトせずにはとても生きていけない人まで千差万別。テレビに出るような有名人は例外なのでここでは省く。かなりトレビアンな額を得ていると推察されます。
では具体的な単価はどれくらいか。芸人としてのキャリアや仕事の内容にもよるが、関西圏の場合、テーブルマジックの営業なら3~5万円、ステージショーなら5~10万円ぐらいの幅で動くのがたぶん一般的だと思われる。
「え、結構もらえるんだ」と思ったアナタ、甘い! その数万円の背後には途方もないほど暗く地味な練習の日々と、莫大な先行投資が費やされているのだ。僕でさえ衣装だけでも30万円はつぎ込んだ。もちろん経費で落とすけど。道具代だって結構なものだ。ショーに使うテーブル4万円、突如現れるステッキ12000円、観客の惜しみない拍手はプライスレスだ。
そして言うまでもなく、収入は不安定。こんな仕事が毎日あるわけではない。3ヵ月後には一本もないかもしれない。だからそうならないために、みな必死で自分のスキルを高め続けている。それが芸人の世界なのだ。
ちなみに、マジックの上手さと収入は必ずしも比例しないのがこの世界。というより、上手なだけではダメで、人物としての魅力とかそれなりの処世術も必要なのだ。それにも増して、常に優秀な若手が台頭してくる。どんどんライバルが増えるわけである。
◆それでもやりたい?
というわけで、これからマジシャンになろうかな、などと血迷ったことを考えている若い人たちがもしいるなら、老婆心で進言しておこう。勉強していい大学を出て公務員になりなさい。もしくはITで起業しなさい。そして社内のイベントにぜひ呼んでください。へへへ。
とまぁ、夢のないことばかり書いたが、それなりに需要もあるので、実は本気でやればなんとか食っていくことのできる世界でもある。
しかし世間の人から見ればやはり得体の知れない職業らしく、「貧乏な夢追い人」ぐらいに映っているようだ。
ある時、レストランで若い2人組の女性にマジックを見せていた。
純粋に驚き楽しんでくれたようでうれしかったのだが、最後に彼女はこう言った。
「ローズすごいよ!これで食べていけるよ!」
食べてますねん・・・。