Essay

第4回 「いつのまにかダマされている」

人間の目はフシアナである。見ているようで見ていない。

何度も出演したことのあるレストランでのことである。
お客さんから「タバコ置いてますか」と訊かれ、「スタッフに訊いてきます」と答えたのだが、なんとトイレの前にタバコの自販機がちゃんとあった。トイレに行くたびに僕も見ているはずなのに、初めてその存在に気付いた。タバコを吸わないから意識に入ってなかったのかもしれないが、それでもこんな大きな物体を見落とすなんて我ながら信じられない出来事だった。

◆マジックへの応用

この「見ているようで見ていない」「視界に入っているのに見えていない」という人間の目の特性は、マジックにおいても重要な役割を果たしている。

「いつのまにかカードが違うところに移動している!」
「じっと見ていたのに目の前でハンカチが消えた!」
「しかもなんだか親指が太くなった気がする!」
「いつのまにか連れの奴等は店の外に出ていて、伝票だけが目の前に残されているゥゥゥ!」

目にも止まらぬ早業ではない。本当は「見ている」はずなのに見えていないだけなのだ。人間の眼はゆっくり変化するものに対してはそれに気付きにくいという特性がある。
たとえばアサガオのツルだ。早送り映像で見るとスルスルと生長しているのに、毎日見ていてもその変化はほとんど分からない。
実はマジックにもこの原理を応用しているのだ。たとえば1分間に10cmずつお客さんのカードを動かせば、マジックの終盤では思いもよらないところに瞬間移動して見えるというわけ・・・ないか。

ともかく、人間の目は見ているようで見ていないものなのだ。いつのまにか変化が起こってもちっとも気付かないものだ。
嘘だと思うなら上のタイトルを見直してみてほしい。「またか」とか言わないで。ね、今回は本当でしょ?

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